地道な努力で着実に成長−矢口哲朗
<99年6月25日付け「北陸中日新聞」
ステップアップ−竜ファーム情報より引用>
育成を担当する首脳陣に「早く見てみたい」と言わせる投手と、「一度投
げさせてやりたい」と言わせる投手がいる。
今季のルーキーの話題を独り占めする松坂は前者だろう。かつて今中もそ
うだった。地をはうような直球を投げ込む新人を目の当たりにしたファーム
の首脳から、1軍キャンプ地に「素晴らしい素質」という電報が届いたとい
うエピソードがある。
矢口は後者だ。ずば抜けた球威はない。大型というほど恵まれた体格でも
ない。
水谷コーチ「力が日々上積みされていくタイプ。育てる側からするとと
ても楽しみな投手だ」
6月6日、ウエスタン・リーグの広島戦で初先発した。中日同期入団の高
卒ルーキーでは一番早い実戦マウンド。
金田コーチ「目だよ。目が違う。キャンプから何をすべきかを真剣に考
え、取り組んできた。ずっと見てきた私たちはもちろん、
周囲の選手だって、彼にチャンスが巡ってくることには疑
問は抱かない」
5回を投げ無失点。
矢口 「変化球でストライクを取ることだけを考えた」
丁寧で、粘り強かった。140キロそこそこの直球も生きた。
水谷コーチ「体の開きが早くて、腕が遠回りしてしまう。右打者の内角
に抜けた球が多くあった。『顔の前で球を離せ』と注意す
るとね、翌日にはすすんでブルペンに入って黙々と投げ込
む。その姿勢なんだよ。今の選手にはないものがある」
堂々とした初先発の内容よりも、その後の矢口に可能性を見る。
松坂との違いを尋ねると
矢口 「素質です。
球威はとてもかなわない。でも、制球力なら。苦しい時に、
いつでも微妙なコースでストライクがとれる投手になりた
い」
生身の人間が一定のコントロールを身に付けるのは不可能かもしれない。
だが、極限に近づくことはできる。
17インチ(43.2センチ)のホームプレートの真ん中12インチは打者の領域で
も、外と内の2.5インチは投手の領域という。 この領域を追い求める矢口の
姿は、「160キロ」を夢見る松坂のそれに重なる。
育てることが使命のファームの指導者たちは、野球の前に謙虚な矢口に心
動かされる。
水谷コーチ「たとえ、わずかなことでもいい。自分が着実に力を付けて
いるという変化に気付くか気付かないか。大きな分かれ目
なんだけど、矢口はそれを敏感に感じとって、強固な土台
を築いていくタイプだ。ほかの選手にあたえる影響も大き
いよ」
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